大手SFAサービスからフルスクラッチでリプレイス【株式会社fundbook様】

2025/02/07

大手SFAサービスからフルスクラッチでリプレイス

株式会社fundbook様について

  • 社名:株式会社fundbook
  • 設立:2017年
  • 業種:M&A仲介業
  • 従業員規模:100〜500人

はじめに

近年、企業の成長に伴う基幹システムの刷新や、業務効率化のためのIT投資はますます重要視されています。特に営業活動を中核とする業種にとって、営業支援システム(SFA)は欠かせない存在です。しかし、多種多様な業務フローを抱え、しかも組織が拡大していく企業の場合、パッケージ型SFAのライセンス費用が膨らむと同時に、カスタマイズの繰り返しでシステム全体が複雑化し、使い勝手が損なわれるといった問題も表面化しがちです。 本記事では、M&A仲介事業を主軸とし急成長を遂げる株式会社fundbook様が、既存のSFAからフルスクラッチ開発のSFAへと移行した背景と、そのシステム構築プロジェクトの全容をご紹介します。ライセンス型からの脱却によるコスト削減だけでなく、自社の複雑な業務フローに合わせた柔軟な機能設計、そして使いやすいUI/UXを実現した本システムは、どのような経緯で開発され、どのような効果をもたらしたのでしょうか。開発に13ヶ月を要したプロジェクトの概要とともに、そのポイントを深掘りしていきます。

1. プロジェクトの背景

1-1. M&A仲介業界の特徴

M&A仲介の業務は、一般的な営業職の業務フローと比べても格段に複雑です。まず、クライアント企業(売り手・買い手)が非常に多様であり、それぞれが置かれている経営環境や要望が異なります。また、M&Aの性質上、法務・財務・税務など、専門領域ごとのチェックが多岐にわたるため、案件管理には膨大なドキュメントと確認プロセスが発生します。さらに、複数のステークホルダーとの連絡・調整が連鎖的に生じるため、進捗管理と情報共有が円滑に行われないと、交渉の停滞やミスコミュニケーションに繋がりやすい分野です。 こうしたM&A仲介特有の複雑な業務フローを管理する上で、SFAやCRMといったシステム活用は不可欠です。顧客データベース管理や案件ステータスのトラッキング、担当者間のタスク共有など、一元管理による効率化は大きなメリットとなります。しかし、それが十分に活用されていない場合や、システムが現場の使いにくさを抱えてしまった場合、かえって業務効率に悪影響を及ぼすケースもあります。

1-2. SFAの導入と拡張

株式会社fundbookでも、当初は大手のクラウド型SFAを導入していました。世界的に実績のあるプラットフォームであり、標準機能だけでも多くの業務フローをカバーできます。一方で、会社規模が大きくなるにつれ、ライセンス費の高騰は看過できない問題へと発展していきました。 また、M&A仲介業界固有の複雑な業務フローを実現しようとすると、既存SFAを標準のままで使うだけでは不十分となり、どうしても高度なカスタマイズが必要になります。しかし、SFA上で次々とカスタマイズを行ううちに、画面遷移が多くなり、ユーザーインターフェースが煩雑化してしまいました。特に現場の営業担当者からは「どの画面で何を入力すればよいのか分かりにくい」「本来自分がやりたい処理にたどり着くまでのステップが多い」といった声が上がっており、システムが本来の目的である業務効率化を妨げている状態でした。 結果として、会社が拡大するにつれてライセンス費は年々増え続け、しかもカスタマイズによる使い勝手の悪さが顕在化し、コスト面でも運用面でもストレスが高まっていたのです。

2. 開発の目的と課題整理

2-1. 課題の明確化

開発前にfundbook様が直面していた主な課題は次のとおりです。

  1. ライセンス費の増大 会社規模拡大に伴い、SFAのユーザーライセンス費が大きくなり、将来的にはさらに大幅なコスト増加が見込まれていた。
  2. 業務フローの複雑化 標準機能だけでは足りず、頻繁なカスタマイズを実施した結果、ユーザーインターフェースや操作フローが煩雑になった。必要な情報にたどり着くまでのステップが増えたことで、現場担当者の負担が増大していた。
  3. 使い勝手の悪化 カスタマイズによってシステム全体が分かりづらくなり、特にM&A仲介に特化した情報の管理やフローが標準機能にうまく収まらない部分があった。加えて、外部との電話連携など、現場レベルで「この機能があればいいのに」と思う細かな機能が実装されておらず、不便を強いられていた。

2-2. 新システムに求められる要件

同社が次に構築すべきシステムとして明確にした要件は、以下の3点に集約されます。

  1. コスト削減 ライセンス型SFAを利用し続けることで生じる中長期的なコストを削減するため、自社でのサーバー管理かクラウド環境の利用を問わず、ライセンス型の課金モデルから脱却すること。
  2. 自社の業務フローへの完全最適化 M&A仲介特有の複雑なフローに加え、同社が培ってきたノウハウをシステムに取り込み、かつユーザーインターフェースを簡潔に保つ必要がある。これを実現するために、フルスクラッチでの開発を選択肢とした。
  3. 使いやすさと拡張性 単に業務を処理するだけでなく、現場担当者がストレスなく利用できるUI/UXを追求する。さらに、将来的に業務範囲や企業規模が拡大した際にも、柔軟に拡張可能な設計にすること。

3. 開発プロジェクトの全体像

3-1. プロジェクト体制

新SFAシステムの開発は、弊社と二人三脚での開発プロジェクトとなりました。プロジェクトマネージャーを中心に、要件定義フェーズではM&A仲介事業の担当者や管理部門のキーパーソンを巻き込み、現状の業務フローや課題を徹底的に洗い出し、必要な機能を精査しました。既存のSFA設定やデータ構造を分析しながら、新たに構築すべきデータモデルや画面設計の方針を固めていきます。

3-2. 開発期間とフェーズ

プロジェクトには13ヶ月という比較的長期の期間が割り当てられました。その内訳は以下のとおりです。

  1. 要件定義(3ヶ月)
    • 現在の業務フローの洗い出し
    • 既存SFAでどのようなカスタマイズを行っていたかのヒアリング
    • 新システムで必須となる機能と優先度の整理
    • 使用技術やUI/UXの方向性を概念設計段階で検討
  2. 基本設計・詳細設計(3ヶ月)
    • データモデルの策定(M&A案件、クライアント情報、タスク管理、進捗状況など)
    • 画面レイアウトのワイヤーフレーム作成
    • PC・スマホ連携や外部サービスとのAPI連携仕様の確定
    • セキュリティ・権限設計の策定
  3. 開発・単体テスト(4ヶ月)
    • フロントエンド・バックエンドの実装
    • DB設計に基づくテーブル作成とスクリプト開発
    • 単体テストでの機能レベル検証
    • カスタマイズ要望の微調整
  4. 統合テスト・移行準備(2ヶ月)
    • 既存SFAデータの移行テスト
    • 開発環境と本番環境の整合性確認
    • 業務担当者による受け入れテスト(UAT)
    • 操作マニュアルや利用ガイドラインの作成
  5. 本番リリース・運用開始(1ヶ月)
    • 本番反映とデータ最終移行
    • 運用体制の確立
    • リリース後の初期トラブル対応と安定運用へ移行

これらのフェーズを経て、システムは大きなトラブルなく立ち上がり、現場の営業担当者による運用が本格的にスタートしました。

4. 新SFAシステムの機能と特徴

4-1. フルスクラッチ開発による柔軟なUI/UX

今回のシステム開発では、「本当に使いやすいUI/UX」の実現を最重視しました。既存SFAでの運用時に生じていた「画面遷移が多く、入力項目が散らばっている」「ワンクリックで行きたい場所に行けない」といった不満を解消するためです。 具体的には、以下のような取り組みが行われました。

  • 業務シナリオ別の画面設計 M&A仲介プロセスでは、企業調査やバリュエーション(企業価値算定)、アプローチ、交渉、契約締結といったフェーズが存在します。それぞれのフェーズで担当者が求める機能やデータが異なるため、画面には「今、このフェーズで必要な情報」をまとめて表示するよう工夫しました。目的に応じてタブやセクションを切り替えられるようにし、情報を一元管理しながらも、見たい情報がすぐに確認できるようになっています。
  • 情報入力のワンストップ化 従来のSFAカスタマイズでは、各情報の入力画面がバラバラに存在し、共通項目であっても複数回入力するケースがありました。フルスクラッチの新システムでは、データモデリングをゼロベースで再設計し、一度入力した情報が関連するすべての画面で自動反映される仕組みにしました。
  • グラフィカルなデータ可視化 複雑な数字や複数の案件の進捗情報を瞬時に把握できるよう、ダッシュボード機能ではグラフやチャートを多用。案件数や成約見込み、フェーズ別の進捗状況などをビジュアル的に表示することで、経営層の意思決定のスピードアップにも繋がっています。

4-2. PC→スマホ通話へのシームレスな連携

M&A仲介業務では、クライアント企業との連絡が頻繁に発生します。メールやチャットでのコミュニケーションはもちろん、電話連絡が重要な役割を果たします。既存システムでは、「PCで案件情報を見ながら電話番号をコピーし、自分のスマートフォンに番号を打ち込んで発信する」という手間がありました。 そこで新システムでは、SFA画面上に表示されるクライアントの電話番号をワンクリックまたはタップでスマートフォンの発信画面に連携できる仕組みを整備しました。例えば、PCで案件情報を閲覧している際に「電話をかける」ボタンを押すと、あらかじめ同期設定しているスマホに通知が飛び、自動的に発信待ち状態になる仕組みです。こうした「痒いところに手が届く」細かなUI/UXの改善が、現場担当者からは特に高く評価されています。

4-3. 担当者ごとの権限管理とセキュリティ

M&A仲介情報は機密性が高く、データの閲覧・更新権限には厳密な管理が求められます。既存のSFAにも権限管理機能はあるものの、独自の権限ロールや複雑な階層を作るにはかなりカスタマイズが必要でした。 フルスクラッチ開発によって、担当者の部署、役職、プロジェクトへの関わり度合いなど、多角的な条件を組み合わせた柔軟なロール設計が可能になりました。また、クライアント企業からの情報は通常よりも慎重に取り扱う必要があるため、データベース側でも高度な暗号化とログ管理を実装し、アクセス監査を徹底しています。

4-4. 今後の拡張を見据えたアーキテクチャ

fundbook様は今後も企業買収や事業承継に関わる新しいサービスを展開していく予定があり、連携すべき外部サービスや追加機能が増えていく可能性があります。そのため、新システムのアーキテクチャ設計ではAPIファーストの考え方を取り入れ、内外のシステム連携を容易にする実装を行いました。 さらに、フロントエンドとバックエンドを疎結合に保つことにより、UI部分のリニューアルや追加機能の実装を柔軟に行えるようにしています。技術面でも、将来的にクラウドインフラを変更する場合に備えたコンテナ環境の利用など、スケーラビリティを確保する仕組みを組み込んでいます。

5. 開発前後での変化と効果

5-1. 大幅なコストカットの実現

最大のメリットのひとつが、ライセンス型からの脱却による中長期的なコスト削減です。既存SFAのライセンス料はユーザー数や機能追加の度合いに比例して高額化しがちでしたが、フルスクラッチ開発を選んだことで、初期開発費用こそ一定程度かかったものの、以後は毎月のライセンスコストがほとんどかからなくなりました。 特に同社のように急成長を遂げ、社員数や案件数が増大している企業にとっては、この差は非常に大きなものとなります。さらに、同システムは自社専用であるため、使われない機能に対して費用を支払う必要がないことも効率的です。結果として、5年、10年のスパンで見たときにライセンス費を払い続けるよりも、はるかに費用対効果が高いとの試算が出ています。

5-2. 業務効率と担当者満足度の向上

従来のSFA利用時に比べると、業務画面の遷移回数が大幅に削減されました。複数の画面を行ったり来たりする必要がなくなり、入力項目も極力まとめられているため、現場担当者のストレスが著しく減っています。 また、「PCで案件情報を見ながら電話連絡をしたい」「フェーズごとの必要ドキュメントをすぐに確認したい」といった、現場で切実に求められていた機能が標準で備わっている点も評価されています。ユーザーインターフェースの質が高まったことで、担当者のシステム利用頻度が増え、結果的に顧客データがより正確かつ網羅的に蓄積される好循環が生まれました。

5-3. 正確な情報蓄積と経営判断のスピード化

フルスクラッチの新システムでは、M&A仲介に必要なあらゆる情報を一元管理できるようになっています。たとえば、クライアント企業の基本情報に加え、過去の交渉履歴や成立案件の特徴、法務・税務面のチェックリストなどが整理され、担当者が必要な時に検索・閲覧できます。 これにより、過去事例の分析や、交渉の際に参考とすべきデータへのアクセスが容易になりました。営業担当者だけでなく、経営層がダッシュボードを確認してリアルタイムに案件の状況を把握し、戦略的な意思決定を下すことが可能になります。成約率の向上や顧客満足度アップにも寄与していると言えるでしょう。

5-4. 運用の内製化とスピーディな改修

フルスクラッチ開発によって自社専用のシステムを保有したことで、改修や運用保守を内製化できるメリットも大きくなりました。もちろん、すべてを自社だけで行うのは負担が大きい面もありますが、最低限の機能改修やレポート作成などは自社の開発チームで対応できる体制が整いつつあります。 ライセンス型サービスに依存している場合、ベンダー側の制約やスケジュールに左右されがちですが、フルスクラッチであれば機能追加やバグ修正を自社判断でスピーディに行える点が強みです。これは急成長フェーズにある企業にとって、日々変化する要件に俊敏に対応できる大きなアドバンテージと言えます。

6. 今後の展望

fundbook様では、新SFAシステムを軸に周辺業務もシステム連携できるよう計画を進めています。現場の声や新たに発生する要件を素早くシステムに反映することで、「使い勝手の良いオールインワンのM&A支援プラットフォーム」への進化を目指しています。 また、蓄積したデータを活用するためのデータ分析基盤の構築にも注力していく予定です。M&A仲介では企業価値の評価やリスク診断など、定量的な分析に基づく判断が求められるシーンが多々あるため、過去案件の実績データを活用し、AIや機械学習の導入を見据えた取り組みも期待されます。フルスクラッチ開発によってデータ構造を自由に設計できるからこそ、将来的な高度分析への対応もしやすくなりました。

7. まとめ

今回ご紹介した株式会社fundbook様のSFAフルスクラッチ開発事例は、ライセンス型SFAの抱える「コスト増」と「使い勝手の悪化」という二重の課題を一挙に解決した例と言えます。M&A仲介という一般的な営業システムの想定を超える複雑な業務フローを持ちながらも、以下のような成果を得ることができました。

  • ライセンスコストの大幅削減 会社規模拡大とともに増大するライセンス費を、フルスクラッチ開発への投資に切り替えることで、中長期的には大きな費用対効果を得られた。
  • 自社専用の使いやすいUI/UX カスタマイズではなくゼロベースの設計を行ったことで、担当者のニーズに即した画面設計や機能を実装。煩雑さが解消され、現場の利用頻度と満足度が高まった。
  • 痒いところに手が届く機能の実現 PC→スマホ通話連携など、現場担当者が「こうあってほしい」と思う細かな機能を標準装備。業務効率が向上し、情報入力やコミュニケーションがスムーズになった。
  • 将来に向けたスケーラビリティと拡張性 フルスクラッチならではの自由度の高さを活かし、API連携やデータ分析基盤など、企業の成長や新サービスに合わせて柔軟にシステムを拡張できる設計になっている。

13ヶ月という開発期間を要しましたが、その過程で社内外のキーパーソンを巻き込み、徹底的に業務要件を洗い出したことが成功の鍵です。とりわけM&A仲介という高い専門性が求められる業務フローに対応しながら、ユーザーに寄り添ったシステムを完成させた点は、今後の社内DXにとっても大きな一歩となりました。 M&A仲介に限らず、複雑で高度な業務を行う企業が、日々のライセンスコストや使い勝手の悪さに悩んでいる状況であれば、フルスクラッチ開発という選択肢を再検討する価値は十分にあるでしょう。もちろん、初期投資や開発期間の確保といった課題は伴いますが、長期的なコスト削減と最適化された業務プロセスというリターンは大きいと言えます。 株式会社fundbook様の事例は、まさにそのリターンを実証したものです。同社はフルスクラッチ開発によって得られた柔軟性とコストメリットを背景に、さらにサービスの拡充と業務効率化を加速させていくことでしょう。SFAやCRMを中心としたシステムの導入・刷新を検討している企業にとって、大いに参考となる事例ではないでしょうか。